陽時計と日々記

三十路過ぎて囲碁を始めてみるおっさんのブログ。

棋書「石倉昇のラクラクわかる基本」

入門者向けの本として、すこぶる人気の高い本のうちの一冊。例に漏れず、私も入門した(まだ13路を打っていた)頃、19路への移行も視野に入れて買いました。その時の評価と今の評価は全然違うもので…。

まず、今回一応これを書くにあたって読み返してみたのですが、「なかなか良い事を書いてるな。」と思ったのが正直なところ。初心者が抑えるべきところを抑えてあるし、全体的に丁寧な作りで分かりやすく、お手本のような本…と言う感じ。

と言っても、これは、ある程度何度か19路で打ってきて、色々と痛い目をみたり美味しい経験をしたりしたことがある、現時点での私の感想。

最初に手に取った時は、「こんな本は使い物にならない」と、1~2度読んで、あとは放ってました。理由は色々とあるのですが…。全体的に丁寧で、難しい事でも分かりやすく簡単に説明しよう…という意図は(今になって)わかるのだけど…当時の私の感覚では、模範対局図や進行図を見ても、「なぜこうなるのかわからない、こっちでダメな理由がわからない」という点が随所に出てきた。さらに、その模範対局の進行が、あまりに綺麗で穏やかで、非常に"都合の良い"展開になっている。「実戦でこんな展開になることは殆ど無いよ、初心者同士ならなおさら無いよ」というようなものだから、「この本を読んで実戦でも生かそう」などというのは、まずムリ。そんなに都合の良い展開には、絶対にならないから。

加えて、「囲碁の敷居を下げよう」とする意図からなのか、オリジナルの格言というかフレーズのようなものが多数出てくるのだが、これが混乱を招く。「まわりにきたらごあいさつ」「ナナメにご用心」「苦しい時はナナメに動け」…とか、色々あるのだけど、このどれもが中途半端な印象を受けた。
例えば「まわりにきたらごあいさつ」。(どの程度相手の石がきたらまわりになるのか)がわからない。さらに言えば、周りに来た石を無視して大場に行く方が圧倒的に良い事もあるわけで、このフレーズを徹底したら、あっという間に低位に押し込まれて大敗する場面があるかと思う(と言うか実際そういう目にあった事がある)。
「ナナメにご用心」に関しても、一応カケツギなどの"大丈夫なナナメ"の説明もあるにはあるのだが、このフレーズを強く覚えてしまうと「とにかくナナメは危ない、ツがないといけない!」という強迫観念みたいなものを感じるようになり、ナナメに動くこと自体が悪手であるように感じられてきてしまう(そういう人を実際に見たことがある)。私の場合は、これで「ケイマは効率の良い動き」という事を覚えるのに時間がかかったように思う(ナナメが弱いのにさらに一目分空けて動くなんて、という感じになった)。カタツギやカケツギがあろうが無かろうが別に危なくないナナメも沢山あるわけで、一概に「ナナメは危険!」と過剰に警告されると良くないと思う。
そういう事を言うワリには「苦しい時はナナメに動け」などと言われるものだから(え、ナナメって危険じゃないの…苦しい時にナナメに動いたら余計に危険なんじゃないの…)となってしまって、かえって混乱する。結局、その苦しくてもナナメに動ける場合というのがさっぱりわからない。

この上記の、「やたら都合の良すぎる模範対局の展開」と「やたらすり込まれる格言」がやっかいで、(使い物にならない)と、すぐに読むのを辞めてしまった。初心者としては実戦ですぐに使えるテクニックのようなものを欲していて(そんなもの実際にはほとんど無いんだけど)、この手の本を手に取ってしまうと思うのだが、そういう意図であれば簡単な定石をいくつか覚えてしまう方がよほどすぐ使えるテクニックになると思う。布石の考え方のようなことも書いてあるが、正直アテにならない。模範対局の全てが「穏やかな進行」なので。急にワリウチされたりしたら、もう使えない。

しかしながら、世間一般では「良書」として挙げられているので、私に合わなかっただけかも知れない。私自身も全く役に起たなかったわけでは無く、三々と星の基本定石だけは、この本で覚えた。しかし、今思い返すと、別にこの本で覚えなくても良かったかな、と思う。

書いてある内容は、決して悪くない。厚みの消し方やヨセに関しても色々と書いてあって、為になることは多い。ただし、読む時期が問題で、その上、この本を読むのに最適な頃にはこの本に書いてあることは大体分かっているだろうと思うので、この本じゃなくても良いと思う。私自身は今回読み返してみて、確かに悪い本じゃないし分かりやすいと感じたが、同じような内容を復習したい場合は、他の本を読む。


石倉昇のラクラクわかる基本 (NHK囲碁シリーズ)